近年、企業のマーケティング活動において「動画」は避けて通れない手段となりました。YouTube、TikTok、Instagramのリール動画など、選択肢が増える中で、多くの担当者が一つの大きな壁にぶつかります。
「結局、長尺動画(YouTube)とショート動画(TikTok/Shorts)、どっちに力を入れるべきなのか?」
この問いに対して、明確な戦略を持って答えられる人は意外と少ないのが現状です。「流行っているからTikTok」「資産になりそうだからYouTube」といった安易な理由で参入し、結果が出ずに撤退する企業があとを絶ちません。実は、商材やサービスの性質、そして現在の市場での認知度によって、「選ぶべき戦場」は明確に決まっているのです。
今回は、命を削ってYouTubeやSNSを伸ばしてきたプロフェッショナルである「青」氏が語る、企業が動画マーケティングで勝つための「長尺 vs ショート」の使い分け戦略について、徹底的に解説します。この動画は11月30日には削除される可能性がある貴重なノウハウです。この記事では、そのエッセンスを余すところなく言語化し、あなたのビジネスを最短ルートで成功に導くための指針を提示します。
動画マーケティングの勝敗を分ける「顕在需要」と「潜在需要」の正体

動画マーケティングを始める際、多くの人が「どのプラットフォームを使うか」から考え始めますが、これは間違いです。青氏によれば、最初に考えるべきは「自社のサービスが『顕在需要』なのか『潜在需要』なのか」という点です。この判断こそが、長尺動画に行くべきか、ショート動画に行くべきかの分水嶺となります。
顕在需要(検索ニーズがある)なら迷わず「長尺動画」
もし、あなたが提案したい商品やサービスが、すでに世の中で知られており、人々が悩みを解決するために検索行動を起こしているものであれば、答えはシンプルです。
結論:YouTubeの長尺動画(ロング動画)を攻めてください。
なぜなら、YouTubeは世界第2位の検索エンジンとしての側面を持っているからです。ユーザーは悩みを解決するためにキーワードを打ち込みます。例えば、「シミを消す方法」「腰痛 治し方」「業務効率化 ツール」などがこれに当たります。
- 検索ボリュームがある:ユーザーが自ら情報を探している状態。
- 解決策が明確:動画で詳しい解説や信頼性を提示することで、購買意欲に直結する。
このような商材の場合、長尺動画でしっかりとした情報提供(教育)を行うことが、売上を上げるための最短ルートとなります。検索キーワードという「需要の受け皿」が既に存在しているため、そこに適切なコンテンツを投下するだけで、濃い見込み客を集めることができるのです。
潜在需要(検索されない)なら「ショート動画」一択
一方で、自分たちが提供しようとしているサービスが「世の中にまだ知られていない」「ニーズが顕在化していない」場合、長尺動画でSEO(検索対策)を狙っても誰も検索してくれません。検索されないということは、YouTube上では存在しないも同然です。
例えば、青氏が例に挙げた「沖縄のボロボロのホテルを再建する」というプロジェクト。誰も「沖縄 ボロボロ ホテル」とは検索しません。機能的な価値やスペックだけでは需要がない状態です。
結論:この場合は、ショート動画で攻めるしかありません。
ショート動画(TikTok、YouTube Shorts、Instagram Reels)のアルゴリズムは「検索」ではなく「発見(レコメンド)」に基づいています。ユーザーが求めていなくても、強制的に視界に入り、興味を喚起させることができるのがショート動画の強みです。
需要がないものでも、物語(ストーリー)や付加価値を乗せて「磨けば光る」可能性があるなら、ショート動画で認知を広げ、無理やり需要を創出するアプローチが必要です。
検索ボリュームと単価の方程式:B2B企業が陥る罠

「検索ボリュームが少ないから、うちはショート動画かな?」と安易に判断するのは危険です。特にB2B企業や高単価商材を扱う場合、重要なのは「ボリュームの多さ」ではなく「検索するユーザーの質の高さ」です。
例えば、ある専門的なB2Bツールの月間検索ボリュームが「300回」しかなかったとします。YouTubeのエンタメ市場から見れば「300」はゴミのような数字に見えるかもしれません。しかし、その300人が「今すぐ導入を検討している決裁者」だとしたらどうでしょうか?
- 月間検索数:300回(少ない)
- 成約単価:数百万円(高い)
- ユーザー属性:激アツな見込み客(濃い)
この場合、300回しか再生されなくても、その中から数件の問い合わせが入ればビジネスとして大成功です。「ボリュームは少ないが単価が高い」商材は、間違いなくYouTube長尺動画で、専門的かつ深い情報を発信し、信頼を勝ち取るべきです。
逆に、検索ボリュームが「ゼロ」あるいは「ほぼ無い」状態で、かつ商品単価もそこまで高くない、あるいは「体験してみないと良さがわからない」という商材(例:新しい概念の雑貨、珍しい食品など)は、ショート動画で認知のシャワーを浴びせ、衝動買いや「なんか良さそう」という感覚を作る戦略が有効です。
「認知ゼロ」の商品を売るためのブリッジ戦略:ヘッドスパの事例

では、全く新しい市場を切り開く場合はどうすればよいでしょうか? 動画内で非常に興味深い例として挙げられたのが「ヘッドスパ」の黎明期です。
かつて日本には「頭をマッサージにお金を払う」という文化はありませんでした。「ヘッドスパ」という言葉自体が検索されず、需要もありません。このような「マストの接続詞(検索語句)」が存在しない場合、どうやって顧客と接点を持てばいいのでしょうか。
1. インプレッションを持つ媒体で「宣伝」してもらう
一つの手段は、すでに影響力のある場所(令和の虎のような人気番組やインフルエンサー)に出ていき、強制的にPRすることです。しかし、これには多額の費用やコネクションが必要になる場合があります。
2. 悩みの「周辺キーワード」からショート動画で教育する
もう一つの、より現実的で再現性の高い手法が、ショート動画を用いた「悩み解決からのブリッジ(橋渡し)」です。
「ヘッドスパ」という言葉は知らなくても、以下のような悩みを持つ人は大量にいます。
- 頭が重い
- 目が疲れる
- 偏頭痛がする
- 顔がむくんでいる
これらの悩みに対して、ショート動画で「ここを押すと目がスッキリするよ」「ここが青くなっている人は要注意」といった「情報の解像度を上げる」コンテンツを提供します。ユーザーは「へぇ、マッサージで楽になるんだ」と認識します。その流れで「実は私がやっているヘッドスパでは、これを根本から解決します」と提案することで、初めて「ヘッドスパ」という解決策がユーザーの選択肢に入ります。
つまり、「悩み(顕在化している症状)」×「ショート動画(発見)」→「解決策の提示(自社商品)」という導線設計です。
長尺動画で「潜在需要」を掘り起こす高度なテクニック

ここまで「長尺=顕在需要」「ショート=潜在需要」という基本原則をお伝えしましたが、上級者になれば「長尺動画で潜在需要を掘り起こす」ことも可能です。これは非常に難易度が高いですが、成功すれば巨大なインパクトを生みます。
その鍵となるのが「新たな需要(エンタメ性)の付加」です。
事例1:ビジネスピッチ × 著名人の激昂(リアル・バリュー)
企業の事業プレゼン(ピッチ)など、普通に考えれば誰も興味を持ちません。しかし、そこに「ホリエモン」や「竹之内社長」といった著名人が登場し、プレゼンターに対して「詰め寄る」「激昂する」というエンタメ要素(付加価値)を乗せることで、コンテンツとして成立させています。視聴者は「事業内容」ではなく「ヒリヒリする人間ドラマ」を見に来ていますが、結果としてその企業やサービスを知ることになります。
事例2:中絶手術 × ドキュメンタリー(1日密着)
青氏が手掛けた事例で衝撃的なのが「中絶手術」に関する動画です。「中絶」の検索ボリュームは限られていますし、積極的に検索したいポジティブなワードではありません。しかし、これを「中絶手術をする人の1日に密着」というドキュメンタリー形式にすることで、「普段見られない世界を見てみたい」という人間の根源的な好奇心(潜在需要)を刺激しました。
これは検索キーワードを狙ったSEOではなく、企画力と映像の解像度で「クリックさせてしまう」力技です。トークだけで解説していたら絶対に伸びなかったでしょうが、映像体験として提供することで再生数を獲得し、結果としてクリニックの認知拡大に貢献しました。
予算とリソースに応じた「正しい戦略」の選び方

では、これまでの話を総合して、あなたの会社は明日からどう動くべきでしょうか? リソースと目的別に整理します。
パターンA:顕在需要があり、リソースも確保できる
戦略:YouTube長尺動画 + ショート動画(切り抜き等)
これが最強の布陣です。検索需要を長尺で刈り取りつつ、ショート動画で認知を広げ、チャンネルへの流入を加速させます。予算があるなら、さらにインフルエンサーとのコラボや広告を投下し、一気に市場を制圧します。
パターンB:顕在需要(検索ボリューム)があるが、リソースが少ない
戦略:YouTube長尺動画に一点集中
「流行っているから」とショート動画に浮気をしてはいけません。検索ニーズがあるなら、長尺動画が最も確実に売上につながります。ショート動画はあくまで「認知」です。売上が欲しいなら、教育効果の高い長尺動画で、悩みの深いユーザーを確実にコンバージョンさせましょう。ここをサボってTikTokで踊っていても、売上は立ちません。
パターンC:顕在需要がない(検索されない)、リソースも少ない
戦略:ショート動画チャレンジ
検索されない商品を長尺動画で解説しても、誰も見つけてくれません。ショート動画で「物語」や「ビフォーアフター」「意外性」を見せ、認知を獲得することから始めましょう。ただし、ただ再生されるだけでなく、そこからどう自社サイトやLINEに誘導するか、設計図を描いてから始めることが重要です。
まとめ:動画マーケティングは「最短ルート」で攻めろ
多くの企業が「YouTubeは大変そうだから、手軽なTikTokから」と考えがちです。しかし、ビジネスにおいて重要なのは「手軽さ」ではなく「最短ルート」です。
検索需要があるのにショート動画ばかりやっているのは、目の前に魚がいるのに釣り竿を垂らさず、遠くでダンスを踊っているようなものです。逆に、需要がないのにSEOを意識した長尺動画を作るのは、魚のいない池に高級な釣り竿を垂らすようなものです。
【今回の重要ポイントまとめ】
- 顕在需要(検索あり) → YouTube長尺動画が最短で売上が上がる。
- 潜在需要(検索なし) → ショート動画で認知を取りに行く。
- B2B・高単価 → ボリュームが少なくても長尺動画で「濃い客」を狙う。
- 需要なし商品の販売 → ショート動画で「悩み解決」の文脈を作り、商品へブリッジさせる。
- リソース不足 → 目的(売上なのか認知なのか)に合わせて、どちらか一方にフルコミットする。
「なんとなく」で動画を始めず、自社の商材がどのポジションにあるのかを冷静に分析してください。もし予算が足りないなら、融資を受けてでも「正しい勝ち筋」に投資するほうが、結果的に安上がりになることも多々あります。
今回の解説を参考に、自社の動画マーケティング戦略を今一度見直してみてはいかがでしょうか。
▼今回参考にした動画はこちら
【11月30日で消す】企業が動画マーケ頑張る時、長尺で攻めるべき?ショートで攻めるべき?正しい戦略の組み方 – YouTube


